チロル音楽祭 Erl 24時間Ring 11.Sept.2014
- 妻鳥 純子
- 2014年9月10日
- 読了時間: 8分

( Passionspielhaus )
チロル音楽祭のErl の24時間Ring、と Bayreuth の Ring を聴いた。どちらかをもう一度聴けるなら・・・と、 一緒にいた市野和子Xeniadisさんと私はそんな会話をし、Erl の Ringの方を を聴いてみたいと口を揃えた。 市野和子Xeniadisさんは多分Ringを、色々な大きな都市で通算40回位聴いていらっしゃると思う。実は、正直に申し上げておく。 私は、個々の作品を聴いたことはあるが、一連のRing を前夜祭から3日間かかるオペラを聴くのは初めてである。(この24時間Ring は、Gustav Kuhn氏の友人であり後援者であるHans-Peter Haselsteiner氏の誕生プレゼントとして2005年に行われたものを再び取り上げたものである。)Erl の場合8月1日が前夜祭で、19:00から Rheingold が始まり、8月2日の17:00からWalküre、同日23:00 からSiegfried 、8月3日11:00からGötterdämmerung と演奏され、前夜祭後、2日の17:00のWalküreからあくる日の17:00までの、24時間Ring ということである。前夜祭の Rheingold は休憩なしで演奏される。このErl の 演奏でことに素晴らしいと思ったのはオーケストラである。大変均整のとれた素晴らしく表情豊かな演奏が続けられていた。 舞台中央に紗幕があり、その奥に、オーケストラがある。指揮者Gustav Kuhn氏はちょうど舞台のど真ん中にあたる所で、勿論客席に背を向けている。歌手(役者)は舞台の前半分で歌い演じている。装置は勿論のこと色々と工夫が凝らされている。この形態では歌手は指揮を見られないではないのかしら?と、思って和子Xeniadisさんに訊くと、客席の一番前に何台か、TVモニターがあって、歌手はそれを見ている。ラインの乙女たちは大変元気で、演奏が始まる前に客席を走り、ダンスらしきものを披露していたが、後半の梯子に乗ってかなり高い位置で歌うときは、モニターがかなり下なので目線が下になり、もう少しモニターの位置が考えられると良いのにと思った。 プログラムには下記のことが書かれている。 オーケストラはチロル・フェストシュピール Erl , 指揮:Gustav Kuhn 演出:Gustav Kuhn 照明:Gustav Kuhn 「Montegral アカデミーの歌手、女性歌手」 演奏会場 Passionspielhaus オペラを聴き終わって書きつけたメモから。 (Das Rheingold) ・休憩なしに演奏される。 Wotan Michael Kupfer Donner Fredrik Baldus Fricka Hermine Haselböck Loge Johannes Chun Froh Ferdinand von Bothmer Freia Joo-Anne Bitter Fasolt Franz Hawlata Fafner Andreas Silverstrelli Alberich Thomas Gazheli Mime Giorgio Valenta Erda Elena Suvorova Woglinde Yukiko Aragaki Wellgunde Michiko Watanabe Floßhilde Misaki Ono 百聞は一見に如かず。心に浮かんだのは、何故かこの言葉。しかし、今は聴くのが一番の大事!! 舞台奥にOrchestra。前面に演者の舞台。広くはない。3人のラインの乙女の出てくる場に,梯子状の脚立のようなものが3つある。乙女たちは全て日本人。あれっ、音が薄っぺらく感じる…。何、これは! オペラの最初から、オーケストラの微妙な音楽の動きにとらえられ感動をおぼえる、終始一貫してオーケストラの音の上に言葉が乗る。ずんずんとよどみなく進む。まるで素晴らしい室内楽を聴くようだ。 素晴らしいWotan、Loge、Alberich、Fricka。大変若いElena Suvorova の Erda がことに素晴らしかった。 また、FafnerのAndreas Silverstrelli が素晴らしい声であった。 Rheingold には、ラインの乙女達は日本人の3人の歌手が出演している。同国人として、大変嬉しく興味深く聴いた。・・・しかしながらなんといえば良いのか言葉がなかった。ラインの乙女たちは劇が始まって最初に音を出すのだが、何か音の伝わり方が良くない。音楽的にもあまり良くない。 のちに出た8月17日の Online Merker の 批評はかなり辛口であった。(注1) Es fängt als gut an,wenn auch einige ausländische Gäste,die offenbar noch keine Berichte über Erl sehen oder dies nicht ernstgenommen hatten,von der szenischen Kargheit, um nicht zu sagen:Dürtigkeit, ziemlich schockiert sind. Es fallen so böse Worte wie Laiser ―― und Kindertheater ,die auf fahrbaren Pyramiden stehenden asiatischen Rheintöchter, die als Basketball ―― und Eishokeystar verkleideten Riesen gefallen gar nicht. ------------------------------------------ (注1) http://www.deropernfreund.de/erl-festspiel.html ------------------------------------------ (ともかく、良く始まった、2,3の外国人の観客は明らかにErl についてなにも報道を見ていないか、舞台のつつましさについて厳しく受け止めていないと思われるが、みすぼらしいとまでは言わないにしても、かなりショックだったようだ。素人のような悪い表現―― そして動くピラミッドに立っているアジア人のラインの乙女、バスケットボール――アイスホッケースターのように扮装した巨人(Riesen)の児童劇のようなものは気に入らない。) ドイツ語の言葉、母音と子音の問題、母音と音の核の関係などを、本当に真剣に検討しなければいけないのではないかと、彼女たちの音楽を聴いて、自分を戒めたのであった。 8月2日 16:00( Walküre ) まず私ごとで恐縮ですが、このWalküreには、Roßweise役 など舞台で歌った経験があることから、大好きな演目である。 1幕 Siegmund Andrew Sritheran Sieglinde Marianna Szirkova Hunding Raphael Sigling Marianna Szirkova のSieglinde がとても良い。 1幕の途中で、大雨になり、会場のPassionspielhaus(パッションシュピールハウス の屋根に雨の音がしばらく鳴っていた。なんと素晴らしく、自然なことだろう!そういえば東京上野の旧奏楽堂も雨の音がする!今時!)Passionspielhaus は高い天井で、梁などが、そのまま組み合わされたような造りで、あくまでも美しいと言える内装ではなく、天井を見上げてみると、出来上がっていない建物の内側のようだ・・・。 2幕 Wotan Vlaimir Baykov Brünnhilde Bettine Kampp Fricka Hermine Haselböck Fricka は 昨晩と同じHaselböck。真っ赤な革のつなぎをパンツ姿で、大変恰好が良い。歌唱が、今まで聴いたFrickaには、一度も聴いたことがないと思われるほどの、また俳優として見目形の良い 色気のある、高音の美しい素晴らしいFrickaである。(注2) 3幕 Walküren Helmwige Manuela Dumfart Gerhilde Berrnadette Flaitz Ortlinde Leonora del Rio Siegrune Veronka Farkas Roßweiße Aurora Faggioli Waltraute Anne Schuldt Grimgerde Michael Bregantin Schwertleite Alena Sautier 8人のWalküre 達は、それぞれがシルバーの小さい自転車を抱えて登場し、舞台を縦横に所狭しといった風に演じている。遠くから駆けてくるBrünnhilde とSieglinde を見に舞台の上手2人が駆けてゆくそのさまで、舞台上の空間が広がるような感じがする。 Walküre 達は、見事にのびやかで素晴らしい声で歌っている。(本当に、この場面好きです、コマーシャルで流れてもドキッとしてしまいます。トスカニーニの指揮のCDを聴いて涙する位です。) ------------------------------------------ (注2) Online Merker 6.August 2014 17:50 1から10までの成績をつけていて、Rheigold,Walküreの両方に10点がついている。G.Kuhn で9点、オーケストラは10点s ------------------------------------------ Wotanと Brünhildeの 素敵な場面。 舞台に6台のハープが出ている。Brünhildeの火の場面だ。何とも見事な美しさだった。 ここのオーケストラは抜群に良い。例えば、日本でこのように有機的にオーケストラと舞台と言葉が一体化しているのを、私は感じたことがない…しばらくして、私は「これは普通の状態ではない・・」と思うしかなかった。 8月2日 23:00 ( Siegfried ) 1幕 Siegfried Michael Baba Mime Wolfram Witterkind Der Wanderer Thomas Gazhell (Wotan) 舞台には3本の柱状のものがあり、舞台の転換のたびに使われている。 2幕 Albrech Oskar Hillebrandt Fafner Andrea Silvestrelli 客席の側の壁際に鋼を打つ音の出るものが何か所か置かれている。金床を打つ音が印象的に鳴る。 Siegfried はFafner をノートゥングで打ち殺す。大蛇から剣を抜く時血を浴びる。血の付いた指を舐めると小鳥の言葉がわかるようになる。小鳥の忠告に従い、ミーメが自分の命を狙っているとMime を殺す。 Siegfried は Brünnhilde のいる炎の山へと急ぐ。 3幕 (1場) Erda Elena Suvorova Der Wanderer Thomas Gazheli (Wotan) Albrech Der Wanderer (Wotan) は、エルダを呼び教えを乞うが、エルダは「世界の運命のことについてはノルンに訊いてくださいください。」と言い、地下へ消える。Der Wanerer は我が最後を見届けよ・・と言う。このErda が素晴らしい。 そこへジークフリートが通りかかり、旅人に炎の山を尋ねる。二人は問答し、Der Wanderer は、Siegfriedの道をふさごうとするがSiegfriedは、お前が父の仇だったのかとノートゥングを振り上げWotanの槍を折ってしまう。Der Wanderer は姿を消す。 Erda (2場) Siegfried Brünnhilde Nancy Weißbach ジークフリートは、Brünhilde のいる山へ。 子供たちは松明を持って客席の後ろ(真ん中の通路を)からと上手(客席から見て舞台右手)から入り、舞台に上がり、Brünnhildeの眠っているところへやってきてBrünnhildeを 丸く取り囲み、しばらく座っていて、やがて下手に出てゆく。(なんと3日(?)午前約2:00)。 その後約40分の愛の2重唱。 8月3日 11:00 ( Götterdämmerung ) Erste Norn Rena Kleifeld Zweite Norn Svetlana Kotina Dritte Norn Anna Princeva プロローグ 3人のノルン、ラインゴールドの時と同じ梯子を使い、運営の糸を紡いでいる。3人の歌手それぞれにふくよかな声で運命を語る。 Sieglried Gianluca Zampieri Brünnhilde Mona Somm Brünnhildeと Sieglfried は別れ、Siegfriedは 旅立つ。 1幕 (第1場)キービヒ家 Gunter Michael Kupfer Hagen Andrea Silvestrelli Gutrune Susanne Geb Siegfried Siegfried がErl の 子供たちに取り囲まれてやってくる。 Gunterと Siegfriedは義兄弟の誓いをたてる。Gunterと共にBrünnhildeの岩へと出発する。 Hagen を演じているAndrea Silvestrelli は前夜祭のRheingold と第2夜のSiegfried でFafner を歌っていて、このGötterdämmerung にも出演しているが、大変素晴らしいBass である。 (第2場)Brünnhildeのいる山。WaltrauteがBrünnhildeの所へやってくる。客席の後ろから真ん中の通路を高いヒールを履いて、美しい姿で走って舞台へあがる、Walküreのテーマ音楽が鳴る中。Brünnhildeの 拒絶にあい、Waltrauteはまた、もと来た通路を通り、上手一番後ろの屋外へと消える。Waltrauteを歌ったAnne Schuldt は、とても良い。 Siegfriedが来る前に岩の周りの炎が燃え上がりだす。Brünnhilde はSiegfriedと寝室を共にする。 2幕 ライン河畔キービヒ家 Hagen Andreas Silvesrelli Alberich Thomas Gazheli Siegried が帰ってくる。 Hagen, Brünnhilde,Gunter 3人が復讐の為、Siegriedの殺害を歌う。 3幕 ラインの乙女たちが階段状のピラピッド型の脚立に乗って、Siegfriedをからかっている。Ringを讃える歌を歌っている。美しい姿で(bei diesen reizenden Japanerin kein Wunder(注3) )(この魅力的な日本人女性達は、ことさらに素晴らしいわけではない!) Siegriedは感情を害する。…Siegfriedが自分の生い立ちを話す場面があり、そこでは舞台に暖かさを感じ、Siegfridを歌うイタリア人のテノール歌手Gianluca Zampieri が素敵に場に調和し、Orchestra、舞台、Chor が素晴らしい。大詰めに近づいていることが感じられ、その感情も加わっているのだろう、何か宗教的なものを感じた。…‥そういえば、この場所は Pasionspielhaus だった。 「Siegfriedは 偽りの誓いのためにHagenに殺される。しかしながら、このSiegfriedは、声は良いのだが、あまりドイツ語のDiktion は良くないと思った。Brünnhilde を歌った Mona Somm は、エレガントな素晴しい美しい舞台姿で、力強い音楽に感動をおぼえた。 Siegfried の亡骸が運ばれてくる。薪が積まれている。Brünnhide が最後の知識を伝える。「演出家はこの悲痛を、最後に明るく未来を目指して、すらっとしたラインの乙女達の喜びのダンスだけではなく、Erlの4人の子供たちの平和に遊ぶ姿を出現させた。こうして15時間に渡るオペラ飛行は終わった。」 (注4) ------------------------------------------ (注3)(注4)http://www.deropernfreund.de/erl-festspiel.html ------------------------------------------

( Passionspielhaus の入り口に向かう通路にある、棘の冠 ) 今回、一番心に思いとめたことがある。Wagnerの音楽では、言葉が一番大事であり、言葉のわからない歌唱は、かなり程度の低いものとなること。 ドイツ語に関してはかなり、われわれ日本人は心してかからなければならないのではないかと、心底から思った。

Gustav Kuhn の ACCADEMIA Di MONTEGRAL ( Gusav Kuhn の バイク…らしい )
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